資産運用
日銀は2026年6月、政策金利を0.75%から1.0%へと引き上げました。これに連動する形で長期金利も上昇しており、日本国債10年物の利回りは2.7〜2.8%程度で推移しています。これは1996年10月以来の高い水準で、長らく「金利がほとんどつかない」状態に慣れてきた私たちにとっては、感覚として捉え直す必要がある変化です。個人向け国債(変動10年)の2026年7月募集分の金利も年1.80%まで上がってきており、数年前まで0%台前半だったことを考えると、その動きの大きさが分かります。
こうした「金利のある世界」への移行を受けて、これまで資産運用の場ではやや脇役的な扱いを受けてきた債券に、あらためて目が向くようになってきました。「これからは株式よりも債券をもっと買うべきなのだろうか」という疑問を持つ方が増えているのも、この金利環境の変化が背景にあります。結論からいえば、株式か債券かという二者択一で答えが出る話ではありません。この記事では、株式と債券がそもそも果たす役割の違いを整理したうえで、金利上昇が債券の魅力にどう影響するのか、そして両者をどう組み合わせて考えればよいのかを順に見ていきます。
株式と債券は、どちらも代表的な運用対象として並べて語られることが多いものの、資産の性質としてはかなり違う役割を持っています。
株式は、企業の成長そのものに投資する資産です。株主として企業の一部を保有し、業績が伸びれば株価の値上がり(キャピタルゲイン)という形でその果実を受け取ります。配当という形で利益の一部を受け取れる場合もありますが、株式投資の軸はあくまで「企業がどれだけ成長するか」に賭ける値上がり益にあります。その裏返しとして、業績や市場心理によって株価は大きく上下し、短期的には元本を大きく割り込む場面も珍しくありません。時間を味方につけて長期で保有できるかどうかが、株式という資産と付き合ううえでの前提になります。
一方の債券は、国や企業にお金を貸し、その対価として利息を受け取る資産です。国が発行するものを国債、企業が発行するものを社債と呼び、あらかじめ決められた利率(クーポン)に基づいて定期的に利息が支払われ、満期(償還日)を迎えると額面金額が戻ってくる仕組みになっています。発行体が破綻しない限り、満期まで持ち続ければ受け取れる金額があらかじめ見えているという点が、株式との大きな違いです。もちろん、満期前に売却する場合は市場価格で取引されるため、その時々の金利環境によって価格が変動しますし、発行体の信用力が低下すれば利息や元本の支払いが滞るリスク(信用リスク)もゼロではありません。ただし株式ほど値動きの振れ幅は大きくなく、「利息収入を淡々と積み上げながら、値動きの安定性を確保する」という役割を担う資産だと整理できます。
つまり、株式は「値上がり益を狙いにいく攻めの資産」、債券は「利息収入と値動きの安定性を確保する守りの資産」という、そもそもの役割分担があります。この前提を踏まえたうえで、次は「金利が上がると債券の魅力が上がる」と言われる理由を見ていきます。
「金利が上がると債券の魅力が増す」という話を聞くと、やや直感に反すると感じる方もいるかもしれません。ここでいったん、その仕組みを整理しておきます。
債券は発行される時点で利率(クーポン)が固定されます。たとえば金利が低かった時期に発行された債券は、その低い利率のまま満期まで変わりません。ところが市場全体の金利が上昇すると、新しく発行される債券は、その時々の金利水準を反映したより高い利率で発行されるようになります。投資家からすれば、同じ「国にお金を貸す」という行為でも、新しく発行される国債の方が高い利息を得られるため、相対的に魅力が増すというわけです。実際、日本国債10年物の利回りは2.7〜2.8%程度、個人向け国債(変動10年)の2026年7月募集分は年1.80%まで上がっており、これから新規に債券を購入する側にとっては、以前より有利な利率で利息収入を確保できる環境になってきています。
ここで押さえておきたいのが、この話には裏表があるという点です。金利が上がる局面では、すでに発行されている低い利率の既発債は、新発債に比べて魅力が下がるため、市場で売買される価格は下落する傾向にあります。満期まで持ち続ければ額面通りの金額が戻ってきますが、途中で売却する場合はこの価格変動の影響を受けます。「金利が上がると債券が有利になる」というのは、主にこれから新規に購入する債券の利回りについての話であり、すでに保有している債券にとっては必ずしもプラスの話ばかりではないという点は、区別して理解しておく必要があります。
なお、金利水準は国によっても異なります。米国10年国債の利回りは4%台前半で推移しており、日本国債より高い水準が続いています。国内の金利が上がってきたとはいえ、世界的に見ればまだ差があるというのも、あわせて押さえておきたい事実です。いずれにせよ、「金利のある世界」になったことで、債券という資産クラスがこれまでよりも利息収入という面での存在感を取り戻しつつあるのは確かだといえます。
ここまで見てきたように、金利上昇によって債券の利回りが上がってきたのは事実ですが、だからといって「株式をやめて債券に乗り換えるべきか」という二択で考える必要はありません。株式と債券は攻めと守りという異なる役割を持つ資産であり、どちらか一方が常に正解ということはないからです。
実務的によく使われる考え方が、年齢やリスク許容度に応じて株式と債券の配分を変えていくというものです。たとえば、これから資産形成を始める若い世代であれば、時間を味方につけられる分、値動きの大きい株式の比率を高めに取り、多少の下落があっても長期的な回復を待つという選択がしやすくなります。反対に、退職が近づいている世代や、まとまった資金の取り崩しが視野に入っている世代では、大きな値下がりが生活設計に直結しやすいため、値動きの安定性を重視して債券の比率を高めに置くという考え方が一般的です。同じ年齢であっても、収入の安定度や他に保有している資産の状況、値動きに対してどこまで平静でいられるかといったリスク許容度によって、適した配分は変わってきます。
大切なのは、「今の金利が高いか低いか」という一時点の判断だけで配分を決めるのではなく、自分がその資金をいつ使う予定なのか、値下がりした場合にどこまで許容できるのかという軸で考えることです。金利が上がって債券の利回りが目を引く水準になったからこそ、あらためて株式と債券それぞれの役割を思い出し、自分にとって無理のないバランスを考え直す機会だと捉えるとよいのではないでしょうか。
「金利のある世界」への移行は、これまであまり存在感のなかった債券という選択肢を、あらためて見直すきっかけになっています。ただし、それは株式と債券のどちらか一方を選ぶという話ではなく、それぞれの役割を踏まえたうえで、自分にとって心地よい組み合わせを探すという話です。この機会に、ご自身の資産のなかで株式と債券がどのくらいの比率になっているか、一度確認してみてはいかがでしょうか。
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