資産運用
不動産価格の高騰に加えて借入金利も上昇し、都市部の収益物件では以前よりも利回りを確保しにくくなっています。そこで改めて注目されやすくなっているのが、地方都市にある中古アパートなどへの不動産投資です。
物件の利回りと借入金利の差を「イールドギャップ」と呼びます。この差が投資の余裕そのものになるわけですが、それを確保するのが難しくなっているなか、地方には都市部より大きなイールドギャップを狙える物件が見つかりやすい、という背景があります。
最初にお断りしておくと、本稿では地方への不動産投資そのものが良い、悪いという話はしません。どちらの手法でも成功する人はいますし、失敗する人もいます。「地方だから危険」「都心だから安全」と単純に分けられるものではありません。
ただ、地方、しかも自宅から離れた遠隔地へ投資するのであれば、共通して知っておきたいリスクがあります。対策を講じるのか、リスクが表に出ることまで織り込んだ収支で投資するのかは、最終的にはご自身の判断です。
本稿では、地方への遠隔地投資を考えるうえで、近年の環境変化によって改めて確認しておきたいポイントを整理します。
地方不動産への投資を考える際、以前から指摘されてきたのが人口減少です。ただ、以前と現在では意味合いが少し変わってきています。
かつては「将来、地方では人口が減る」という長期的なリスクとして語られることが多いものでした。しかし現在では、多くの地方都市ですでに人口減少が現実のものとなっています。
大都市圏で生活していると実感しにくいかもしれませんが、人口規模の大きい札幌市でさえ人口減少局面に入っています。2021年には戦後初めて人口が減少に転じ、2025年の国勢調査では196万4,034人と、1920年の調査開始以来はじめての減少となりました。
さらに、現在の年齢構成を見れば、今後も人口減少が続く地域は少なくないと考えられます。
もちろん、「地方都市単位の人口減少=その地域の賃貸物件がすべて苦戦する」という話ではありません。駅周辺や大学、病院、工場など一定の賃貸需要が集まる場所はありますし、競合物件より立地が良い、設備が充実している、管理状態が良好といった強みがあれば、人口減少の影響をある程度打ち返せる可能性もあります。
しかし、その地域全体の人口が減り続けるという事実は、中長期での投資回収を前提とする不動産投資では軽視できません。
その地域で賃貸住宅を必要とする若年層や単身者、ファミリー層が今後どの程度残るのか。一方で、新築アパートや築浅物件などの競合はどの程度増えているのか。地方投資では、現在の入居率や表面利回りだけではなく、「5年後、10年後にも、この物件を選ぶ入居者がいるのか」という視点が、以前にも増して重要になっています。
もう一つ大きく変化しているのが、物件を取り巻く収支環境です。
建築資材や人件費の上昇を背景に、原状回復や設備交換、大規模修繕などにかかる費用が高騰しています。さらに金融政策の転換により、借入金利の上昇も顕著になってきました。
東京都心部など賃貸需要の強いエリアでは、家賃を引き上げることでこうしたコスト増にある程度対応できます。実際、都心部を中心に、退去時の募集や契約更新に合わせて家賃を引き上げるケースは珍しくなくなってきました。
しかし、賃貸需要が相対的に弱く、人口減少が続く地方都市では、都心部のように家賃を上げられるとは限りません。比較的家賃を上げやすい地域や、新築・築浅物件を中心に上昇しているケースもありますが、現状維持が精いっぱいという地域も少なくないのが実情です。
誤解を恐れずにいえば、コストは増える一方なのに、家賃は上げられないどころか、築年数の経過に伴って下がることすらある。これが現実です。
ここが、地方の高利回り物件を見るうえで最も大事なところです。実際に数字を並べてみましょう。
価格2,000万円、表面利回り10%の物件があったとします。年間の家賃収入は200万円です。ここから順に引いていきます。
まず、満室が前提の数字ですから、空室を見込みます。空室率を10%とすると、実際の家賃収入は180万円です。
次に運営費です。管理会社への管理料、固定資産税・都市計画税、共用部の電気代、日常的な修繕。これらを家賃収入の20%とすると36万円かかり、残りは144万円になります。この時点で、物件価格に対する利回りは7.2%です。
さらに、外壁や屋根といった大規模修繕があります。10年に一度200万円かかるとすれば、年あたり20万円を積み立てておく必要があります。差し引くと124万円、利回りにして6.2%です。
表面利回り10%が、6.2%になりました。ここにはまだ、借入金の利息も税金も入っていません。
この6.2%という数字自体は、決して低いものではありません。問題は、ここから家賃が下がったり、修繕費が想定を上回ったり、金利が上がったりしたときに、どれだけ余裕が残っているかです。
地方物件の利回りが都市部より高いのは、単純に「割安でお得だから」とは限りません。賃料成長の弱さ、空室、売りたいときに売りにくいといったさまざまなリスクを織り込んだ結果として、高い利回りが求められている面もあります。表面利回りの数字を見るだけではなく、その利回りが将来も維持できるのかを考える必要があります。
そして、地方への遠隔地投資には、以前から変わらない「管理」面の難しさもあります。
自宅から離れた物件では、設備の故障や退去後の原状回復、建物の不具合などが発生しても、投資家自身がすぐに現場を確認することはできません。そのため、日常の管理から修繕対応まで、現地の管理会社や修繕業者へ任せる場面が必然的に多くなります。
そこで重要になるのが、信頼できるパートナーを確保し、円滑な協力体制を維持できるかという点です。ところが、これが思いのほか簡単ではありません。
地域によっては、管理会社や修繕業者の選択肢が東京都心部ほど多くなく、工事内容によっては対応できる業者を探すだけでも苦労することがあります。複数社から相見積もりを取り、価格や工事内容を比較するといった対応が難しいケースもあるでしょう。
オンラインでの相談や写真・動画による現場確認が普及したとはいえ、物件管理のすべてを遠隔で完結できるわけではありません。だからこそ、地方への遠隔地投資では、物件そのものだけでなく、「現地で誰に管理や修繕を任せられるのか」という体制まで含めて考える必要があるのです。
こうした従来からの遠隔管理の課題に、人口減少の顕在化、コスト高や金利上昇といった近年の環境変化が重なります。そう考えると、地方物件の利回りが都心部よりも相対的に高いことは、「お買い得」というよりも「リスクや課題を織り込んだ結果」と理解する方が合理的でしょう。
いかがでしょうか。
繰り返しになりますが、地方・遠隔地への不動産投資そのものが危険なわけではありません。地域の賃貸需要を理解し、競争力のある物件を適切な価格で購入し、現地の管理会社や業者との体制まで構築・維持できるのであれば、地方の高利回り物件が有力な投資対象になることもあるでしょう。
しかし、近年は地方投資を取り巻く前提条件が少しずつ変わっています。人口減少は将来の予測ではなく、多くの地域ですでに始まっています。修繕費などの経費は上昇し、借入金利も以前より高くなる一方で、それを家賃へ十分に転嫁できる地域ばかりではありません。そして、遠隔管理という従来からの難しさも残っています。
少なくとも、「都心部では利回りが低くて買えないから、地方の高利回り物件を買う」という消去法による判断は、くれぐれも慎重に行うべきです。
表示されている利回りの高さには、それだけの数字になる理由がある。それを冷静に見極めることは、これまで以上に重要になっているのではないでしょうか。
物件資料に書かれた表面利回りは、あくまで満室を前提にした計算上の数字です。そこから空室、運営費、修繕費、そして借入の利息を引いた先に、実際に手元へ残る金額があります。
気になっている物件の数字をどう読めばよいか、想定している収支に見落としがないか。判断に迷われたときは、お気軽にご相談ください。
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