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不動産投資は「売却して成否が分かる」――その格言の真意を説明します

不動産投資は「売却して成否が分かる」――その格言の真意を説明します

不動産投資は「売却して成否が分かる」――その格言の真意を説明します

「不動産投資は、売却を終えることで初めて成否が分かる」。

こうした格言やフレーズを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。

 

著者も、全く同意見です。毎月・毎年の家賃収入は順調でも、いざ売却しようとした時に思うような金額で売れないことはあるでしょう。もちろん、その逆もまた然りです。

不動産投資の利益(損失)は売却するまで確定できない。これは当たり前の話に違いありません。

 

ところで、この格言はもう一つ、不動産投資における重要な“示唆”を含んでいます。

それは、「売却とは“帳簿上の価値”と“実態としての価値”のズレを埋める」手続きでもある、という気付きです。

 

たとえば、3,000万円の価値のある収益物件を3,000万円で売却した場合、一見するとただの資産の組み換え(固定資産→現金資産)に見えるかもしれません。

しかし実際には、投資家に対する客観的・対外的な評価は、売却の前後で大きく変わることも珍しくありません。それはなぜでしょうか。

 

著者が投資家の方からご相談を受ける中で、この仕組みを熟知し、上手に活用できるかどうかが、不動産投資の初心者と中級者を分ける一つの分水嶺ではないかと、日ごろから感じています。

 

本稿では、不動産投資の売却におけるこの重要な“示唆”に焦点を当て、投資初心者の方にも分かりやすく説明していきます。

 

■収益不動産の会計処理――「土地」と「建物」を分けて考える

本題に入る前に、前提となる収益不動産を購入した際の会計処理の基本をおさらいしておきましょう。

 

通常、収益不動産の取引では「土地」と「建物」がセットで売買されています。実務においても、売買契約書等に内訳金額の記載があったり、重要事項として説明を受けたりしますので、この点はご存じの方も多いでしょう。

 

会計上の処理も、売買契約書に記載の内訳金額のとおりに「土地」「建物」を別々の固定資産として資産計上することが原則となります。

そして、計上した「土地」の価値は基本的に売却時までそのままですが、「建物」の価値は経年で減っていく処理を行う必要があります。「建物」は「土地」と異なり劣化していく性質があり、所定年数でその価値を少しずつ減らしていくべしという会計上のルール(これを「減価償却」といいます)があるためです。

 

たとえば、購入価格3,000万円(土地1,000万円、建物2,000万円/10年償却)の収益物件の場合、購入5年後の帳簿上の価値は2,000万円(土地1,000万円、建物1,000万円)となっています。

実際に収益物件としての稼働が悪くなったとか、本当に建物が劣化して価値が落ちたとかの事情によらず、会計上のルールとしてこのように価値を減額する仕組みになっているのです。

 

■「帳簿上の価値」は信用力に効く――BSに載るのは“実態の価値”ではない

著者が実際にご相談を受けていると、「土地と建物は別枠管理」「建物は減価償却が必要」ということを“知識”としてご存じの方は割と多くいらっしゃいます。

しかし、減価償却の手続きによって「ご自身の信用力が低下している」事実に気付いている方となると、これは驚くほど少ないというのが正直な印象です。

 

実際、投資家目線でこれを理解するのは難しいと思います。

しっかりした収益物件を選び、一定レベルの管理をしていれば、数年・十数年程度で、その建物の“稼ぐ力”が大きく下がることはあまりないでしょう。

売買相場も同様で、近年の市況では数年前・十数年前に購入した時点と売却想定価格が変わらない、むしろ首都圏など一部エリアでは購入価格より高く売れる事例も珍しくありません。

 

つまり、少なくとも不動産投資が順調な方にとっては、下がったのは「帳簿上の価値」だけであって、実態とは必ずしも連動していません。

だからこそ、“帳簿上の価値”と“実態としての価値”の差分はあまり気にしていない、あるいはそもそも“帳簿上の価値”に注意を払っていないことが多いのでしょう。

 

しかし、金融機関の融資など第三者目線の評価を考えた場合、“帳簿上の価値”は軽視できません。

なぜなら、融資審査などで重要視される貸借対照表(バランスシート、いわゆる「BS」)には、この“帳簿上の価値”だけが記載されるからです。BSには収益物件の稼働率や売買時価は考慮されません。減価償却により価値の痩せた「建物」の価値だけが、淡々と記載されるのみなのです。

 

■では、売却は何を変えるのか――“ズレ”を埋めて評価を取り戻す

では、冒頭の「売却とは“帳簿上の価値”と“実態としての価値”のズレを埋める手続きでもある」という話に戻ります。

 

先ほどの例を使いましょう。

購入価格3,000万円(土地1,000万円、建物2,000万円)の収益物件が、減価償却によって5年後には帳簿上2,000万円(土地1,000万円、建物1,000万円)となる。けれど実態としては、稼働も相場も大きく崩れておらず、仮に売るなら3,000万円で売れるかもしれない。こういう状態は、実務でも十分起こり得ます。

 

このとき投資家の頭の中には、「自分の資産は3,000万円の価値がある」という実感があります。

しかし対外的には話が別です。金融機関がまず目にするBSには2,000万円しか載っていない。つまり、投資家の“実感”と、第三者が参照する“公式の数字”の間に、1,000万円のズレが存在することになります。

 

ここで売却が効いてきます。

仮にこの物件を3,000万円で売却できた場合、投資家の手元には3,000万円の現金が入ります。すると、BS上でも資産が3,000万円の現金として明確に表れます。帳簿上2,000万円に“痩せていた資産”が、売却によって3,000万円として可視化されるわけです。これが「ズレを埋める」という意味です。

 

しかも、ここは単なる見せ方の話ではありません。

現金化されると、次の打ち手が増えます。借入の返済に回して負債を圧縮することもできますし、自己資金として手元に厚く持って資金繰りの耐性を上げることもできます。あるいは次の投資の頭金として再投下する選択もある。

いずれにしても、売却とは「家賃が止まる代わりに現金が入る」以上に、資産と負債のバランスを組み替え、対外的な評価の土台を整える行為でもあるのです。

 

ここまで聞くと、「売却しないと信用力が下がり続けるのか」と感じる方もいるかもしれません。

結論から言えば、必ずしもそうではありません。ただ、ここまで踏み込むと論点が拡散するため、本稿では割愛します。

とはいえ、まさにこうした疑問を抱き、答えを探り、実行に移していく――これこそが不動産投資初心者と中級者を分ける、大きな壁ではないかと思う次第です。

 

いかがでしょうか。

 

不動産投資は「売却で成否が分かる」という格言は、確かにその通りです。

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しかし、その真意は“利益確定”だけではありません。売却は、“帳簿上の価値”と“実態の価値”のズレを埋め、投資家の対外的な評価や次の選択肢を増やす行為でもあります。

 

この点は、戦略的に不動産投資を進める上で非常に重要な考え方です。ぜひ覚えておいていただけたらと思います。

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