資産運用
収益物件リノベーションが注目される理由――その成功と失敗を分けるもの
首都圏や主要地方都市における、収益物件価格の高止まりが止まりません。
背景には資材コスト・建築費などの高騰があるとされますが、そうした影響を直接受ける新築物件だけでなく、本来は経年で値下がりするはずの中古物件でさえも、逆に経年で値上がりする事例が珍しくなくなってきました。
そこに日本銀行の金利政策見直しによる金利上昇が重なりました。
不動産投資の利回りやイールドギャップは縮小が進み、従来の「収益物件を買って貸す」というスキームだけでは難しい市況に入ったことは皆さんもご承知のとおりです。
こうした状況下、近年あらためて注目を集めているのが、中古物件を購入して「リノベーション」を施すという選択肢です。
リノベーションとは、原状回復(古くなった室内を元に戻す)だけでなく、室内の仕様・設備を積極的に入れ替えたり、間取りを大胆に変更したりすることで新たな価値創出を図る、大掛かりなリフォーム工事のこと。
実需向け住宅では先行して流行の兆しが見られましたが、いよいよ収益物件にもその勢いが波及しつつあります。
但し、注意すべきは、実需向け住宅と収益物件では、リノベーションを行ううえでの優先順位が異なるということ。ここを混同すると手痛い失敗に繋がりやすく、十分な理解・検討が重要です。
本稿では、収益物件リノベーションが注目される背景を整理したうえで、その成功と失敗を分ける考え方を確認していきます。
■収益物件でも「中古×リノベ」が選ばれ始めている理由
不動産投資では、従前より必ずしも新築が主流というわけではなく、中古物件の売買も活発に行われていました。むしろ中古物件の割安さに注目して、これを専門に扱う不動産業者も多く存在するほどで、収益物件として中古物件を選ぶこと自体は、なんら珍しいことではありません。
近年の変化は、「割安な中古物件を買って貸す」から一歩進んで、「割安な中古物件をどのように再生して貸すか」という観点が、より強く意識されるようになった点にあります。
前述したように、中古の収益物件においても価格の高止まりと金利上昇の影響は大きく、従来の手法では十分な利益を見込むことが難しい市況です。
購入時点で数字が厳しいなら、購入後の運用局面でテコ入れするしかない。そうした発想が、リノベーションを後押ししている面があります。
実際、賃貸情報サイトを検索しても、古い中古物件をリノベーションしたであろう部屋の募集を見かける機会は多くなりました。築古でもきれい、清潔感がある、使い勝手が良い。立地や家賃設定次第では、賃貸市場でも確かに一定の訴求力を持つことは容易に想像できるところでしょう。
また最近では、リノベーション済みの中古収益物件の販売も活発化しています。オーナーにとっては、自分でリノベーションを行う手間が省けるうえ、購入前に完成形が見える点は魅力といえます。
但し、リノベーションのコストは確実に販売価格に上乗せされていますので、割高な買い物とならないかはいっそうの注意が必要なことは言うまでもありません。
■「良いリノベ=儲かる」とは限らない――実需目線の落とし穴
ところで、リノベーション事例を学んでいくと、「こんな素敵な部屋になるのか!」「これは便利に違いない!」という新たな発見があるものです。
実需向け住宅の世界では、こうした発見の積み重ねはリノベーションの醍醐味の一つであり、住み心地や満足度の向上に繋がることは疑いがありません。
予算をかければかけただけ、満足度は高くなりやすい傾向にあるといえます。
しかし不動産投資における収益物件において、この感覚をそのまま持ち込むと、本来の目的を見失いやすくなります。
賃貸市場では、部屋の魅力や利便性の積み重ねと、実際の家賃相場や稼働率が必ずしもマッチしないためです。
現実には、その収益物件の所在するエリアや広さによって、家賃の上限レンジはおおよそ決まっていますし、部屋の稼働率が100%を超えることはありえません。
たとえば、家賃水準が高くない部屋に高額な設備(高性能なシステムキッチンやタンクレストイレなど)を導入しても、入居者にとっては「あれば嬉しい」に留まり、投下予算に見合うだけの家賃上昇には結びつかないでしょう。
あるいは、稼働率80%の部屋を拘りのデザインに仕立てたとして、稼働率の伸び代は最大20%にとどまるわけです。
収益物件のリノベーションでは、この線引きが非常に重要なポイントとなります。
■重要なのは「効果の見極め」と収益からの逆算――業者任せにしない
では、収益物件のリノベーションを検討する際、どこに最も注意を払うべきなのでしょうか。
それは、「何をどこまで良くするか」を考える前に、「そのリノベーションで何を改善したいのか」を明確にすることです。
リノベーションによって期待できる効果は、主に三つあります。
一つは家賃の上昇、二つ目は空室期間の短縮、三つ目は広告料(AD)の削減です。
家賃アップは分かりやすい成果ですが、エリアや物件特性によっては大幅な上昇が見込めないケースも少なくありません。その場合でも、空室期間を短縮できたり、ADを抑えられたりすれば、実質的な収益改善に繋がることは十分にあり得ます。もちろん、これら複数の効果が同時に期待できるケースもあるでしょう。
重要なのは、「リノベーションで何をするか」を先に決めるのではなく、「どの効果を、どの程度、何年で回収したいのか」を先に整理することです。
例えば、家賃はいくらまで上げられそうか、空室期間はどの程度短縮できそうか、その結果として年間収支はどう変わるのか。こうした数字を仮置きでも構いませんので可視化してみることで、リノベーションにかけられる上限コストは自ずと見えてきます。
逆に、こうした整理を行わないまま、リノベーション業者や工務店に相談してしまうと、判断を誤りやすくなります。
リノベーション業者や工務店は工事のプロではありますが、不動産賃貸業のプロではありません。さらに一般論として、発注者と受注者は利益相反の関係になりやすい立場でもあります。工事としては正しく、室内は立派になったとしても、投下したコストが回収できなければ、投資としては失敗です。
収益物件のリノベーションでは、「どんな部屋にしたいか」ではなく、「どんな数字を改善したいか」を起点に考える視点が欠かせません。
いかがでしょうか。
中古物件のリノベーションは、収益不動産において有効な選択肢となり得ます。しかしそれは、実需向け住宅の成功体験をそのまま持ち込めばよい、という意味ではありません。
収益物件のリノベーションとは、美しさや新しさを競うものではなく、あくまで収益性をどう改善するかという「数字との対話」です。
「良さそうだからやる」「流行っているからやる」のではなく、「やることで何が変わるのか」「その変化は投資として見合うのか」を一つひとつ確認していく。
物件価格が高止まりし、金利上昇が続く時代だからこそ、リノベーションを夢のある話としてではなく、収益を作るための実務的な手段として捉え直す視点が、これまで以上に求められているのではないでしょうか。
Real Media メールマガジン登録完了
不定期(月1回程度)にてお役立ち情報のお知らせを
メルマガにてお送りさせていただきます
未来に向けての資産運用にご活用くださいませ。