資産運用
近頃、SNSでは区分マンション投資(以下、「区分投資」といいます)に対する、ある“批判”が注目を集めています。
それは、「区分投資は修繕積立金の値上げでもう厳しい」「区分投資の最大の旨味がなくなった」という類いの指摘です。
背景にあるのは、修繕コストの上昇です。
材料費や人件費の高騰により、マンションの大規模修繕や設備更新の見積もりが、ひと昔前の感覚では収まりにくくなってきました。修繕積立金の増額が総会の議題に上がりやすくなり、実際に増額に踏み切る管理組合も増えています。区分投資の収益性を低下させるケースが目立っているのは、なるほど事実なのかもしれません。
しかし、ここで一つ疑問が残ります。
修繕コストの上昇は、区分投資だけの問題ではありません。一棟アパートでも戸建て賃貸でも、何なら実需の持ち家でも、修繕が必要ならコストは同じように増えやすい構造にあります。
それなのになぜ、SNSでは“区分投資”がとりわけ槍玉に上がるのでしょうか。
本稿では、SNSで注目されるこの批判の原因を分解し、その合理性・妥当性を分かりやすくご説明します。
■修繕コスト上昇は“不動産全般”に効く――しかし区分は実質利回りに直撃する
まず大前提として、修繕コストの上昇は区分投資に限った話ではありません。
材料費や人件費が上がる以上、賃貸経営であれ実需であれ、建物を維持する限り同じ構造でコストは上振れします。
ただし、その影響が「特に区分投資では見えやすい」。ここがSNSで狙い打ちされる1つ目の理由です。
不動産投資をしている方なら、「実質利回り」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。これは、「収入(家賃)」から「支出(管理費・修繕関連の費用など)」を差し引いた手残りを、収益物件価格で割った割合のことです。
実質利回り自体は、区分投資に限らず、戸建てや一棟を含む収益物件全般で、購入判断の基礎材料として活用されています。
しかし、ここに区分特有の事情があります。戸建てや一棟は「必要なタイミングで必要な金額」を支出するのが基本です。
これに対して区分投資では、毎月の支出として修繕積立金が固定化されており、増額が決まれば、実際の工事を待たずに手残りがそのまま減ります。結果として、実質利回りの数字に直撃しやすいのです。
さらにいえば、区分マンション売買の実務では、修繕積立金の値上げがまだ確定していなくても、「値上げを検討している」段階で重要事項説明に盛り込まれることも珍しくありません。つまり、増額が現実化する前から、売買の場面でリスクとして可視化されやすいということです。
こうした事情から、区分投資では修繕コストの上昇が数字に反映されやすく、それが冒頭のSNSの指摘につながっている――このように整理できます。
■区分投資では「修繕積立金の持分」を引き継ぐ――これが仇となる!?
もう1つの理由は、区分投資では実質的に引き継ぐ「管理組合の修繕積立金残高」の価値が、インフレ局面では目減りしやすい点にあります。
戸建てや一棟の場合、引き渡し後に発生する修繕コストは、原則として新所有者がその都度支出します。前所有者が過去にどれだけ修繕に備えていたとしても、その“備え”が仕組みとして新所有者に引き継がれるわけではありません。
一方、区分マンションでは構造が異なります。前所有者を含む区分所有者が毎月支出してきた修繕積立金は、管理組合会計として共同財布に積み上がり、将来の大規模修繕等に充てられます。そして区分を売買すると、新所有者はこの共同財布の“持分”を含む形で区分を取得することになります。
たとえば、前所有者が毎月1万円の修繕積立金を10年間支出していたなら、単純計算で120万円(1万円×12ヵ月×10年)分が共同財布に積み上がっていることになります。もちろんマンション全体の支出入や持分割合の話は別として、少なくとも「過去の積立がゼロからやり直しになるわけではない」という意味で、この仕組みは区分投資ならではの魅力の一つとされてきました。
ところが修繕コストが上がりやすい局面では、この“引き継いだ積立”の実質的な価値が目減りします。同じ120万円が残っていたとしても、その120万円で実施できる工事の質・量は、物価上昇とともに縮んでいくからです。
つまり、数字として残高があっても、将来の修繕を賄う力(購買力)が落ちていく、ということです。
著者が冒頭のSNSでの批判を読み解く限り、その論点は大きく二つに集約できます。
ひとつは、区分投資では修繕積立金の増額が実質利回りの低下として表に出やすいこと。
もうひとつは、引き継ぐ修繕積立金残高そのものも、インフレ局面では実質的に価値を棄損しやすいこと。
SNSの主張が強い言葉になりがちなのは、この二重の意味で“効き方が分かりやすい”からだと整理できるでしょう。
■対策は二つ――買う前に見極めるか、買った後に関与するか
では、区分投資家はどう構えるべきでしょうか。
対策は大きく二つです。買う前に“管理の強いマンション”を見極めるか、買った後に“自分が関与する前提”で構えるかです。
対策の一つ目は、買う前の目利きです。
管理が重要と言われるのは昔からですが、修繕コストが上がりやすい局面では、その重要度が一段上がります。確認すべきは、長期修繕計画と積立水準の整合、直近の積立金改定の履歴、滞納が恒常化していないか、管理組合の意思決定が機能しているか、といった点です。
ここが弱いマンションほど、いざ工事費が上振れしたときに“しわ寄せ”が一気に出やすい。実需比率が高く、住民の当事者意識が強いマンションは、この点で相対的に安定しやすい傾向があります。
対策の二つ目は、買った後の関与です。
これは投資家にとってハードルが高い話ですが、現実的な選択肢として無視できません。区分は「買って貸すだけ」と思われがちですが、管理組合の意思決定が資産価値を左右します。とくに投資家比率が高いマンションほど、良くも悪くも運営の初期レベルが低いことがあり、少し介入するだけで改善する余地が大きいケースもあります。理事会や修繕委員会に入り、論点を整理し、必要な合意形成を進める。こうした動きができるかどうかで、同じ物件でも結果が変わることは珍しくありません。
実際、著者の周囲でも、リタイア後の投資家がこの役回りを担っている例があります。時間が取れるという事情もありますが、それ以上に、「関与が利回りに直結する」と理解しているからでしょう。
いかがでしょうか。
このように背景を分解してみると、冒頭のSNSの批判には事実として頷ける部分がある一方で、結論だけを強く言い切る形になっており、そのまま鵜呑みにするのは危ういことも見えてきたのではないでしょうか。
インフレ局面が続く市況では、これまでと同じ目線・評価軸だけで投資判断をするのは確かに危険です。
しかしその一方で、出所や根拠が曖昧な情報に一喜一憂しても、意思決定の精度は上がりません。
必要なのは、論点の構造を押さえたうえで、自分の判断軸を更新することだといえるでしょう。
Real Media メールマガジン登録完了
不定期(月1回程度)にてお役立ち情報のお知らせを
メルマガにてお送りさせていただきます
未来に向けての資産運用にご活用くださいませ。