資産運用
2024年7月1日、国土交通省による「不動産業による空き家対策推進プログラム」の一環として、不動産取引の報酬規定に、「低廉な空家等の媒介の特例」が追加されたことをご存じでしょうか?
国土交通省は、かねてより空き家や空き地、マンションの空き室(以下、「空き家等」といいます)の急増に関して、空き家等を放置すると、使用困難となり、やがて周辺環境等に様々な悪影響を及ぼすこと等から、“使える”空き家等はなるべく早く有効に利活用を図ることが重要として課題視していました。
今回の特例追加は、こうした背景を受けた、売買金額の低い空き家等の取引活性化を促すための措置の一つで、800万円以下の不動産売買における仲介手数料の上限額が、最大33万円まで引き上げられることになりました。
これを受けて、早速ホームページ等で仲介手数料の値上げを案内する不動産業者も出ているようで、「空き家等の対策が必要なのは分かるけど、仲介手数料の値上げも困る・・・」と感じた方も多いかもしれません。
しかし、著者としては、今回の特例追加には少なからずメリットも感じている部分もあります。
本稿では、現行の仲介手数料の問題点をおさらいしつつ、今回の特例追加に関する著者の所見についてご説明していきたいと思います。
まずは、現行の仲介手数料の仕組みと問題点を、簡単にご説明しておきましょう。
原則として、不動産売買の報酬は成功報酬となっており、不動産の売り手と買い手が条件に合意し、実際に売買が成立して初めて、不動産業者は仲介手数料をもらうことができます。
また、仲介手数料には売買金額ごとに以下の上限額が決まっていて、たとえば、1000万円の不動産売買を仲介した場合、仲介手数料の上限額は39.6万円((1000万円×3%+6万円)×1.1)です。
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<仲介手数料の上限額(原則)>
【売買金額のうち200万円以下の部分】
売買価格×5.5%
【売買金額のうち200万円超〜400万円以下の部分】
売買価格×4.4%
【売買金額のうち400万円超の部分】
売買価格×3.3%
※400万円超の売買案件では、「(売買価格×3%+6万円)×1.1」の速算法で計算することが多い
<仲介手数料の上限額(特例)>
【売買金額のうち400万円以下の取引】
売主からの仲介手数料に限り、19.8万円
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不動産の売買仲介1件あたりにかかる手間やコストは、1000万円の案件でも、100万円の案件でも大差ありませんので、こうした仲介手数料の仕組み上、不動産業者が「より早く売れる案件」「より高く売れる案件」を、優先的に取り扱いたくなることは仕方がありません。
従来も、400万円以下の不動産売買における仲介手数料の上限額について、売主からの分に限り最大19.8万円に引き上げる特例はありましたが(買主からの仲介手数料には特例の適用はありません)、この特例ではインセンティブが足りず、特に「売りにくく」「売買金額の低い」傾向にある地方の空き家等の取引活性化には繋がらなかったと、国土交通省では分析したのだと思われます。
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こうした経緯を経て、低額な不動産売買に対するインセンティブを一気に引き上げようという試みが今回の法改正です。
・特例の適用範囲を、400万円→800万円以下の不動産売買まで拡大
・特例による仲介手数料の上限額を、19.8万円→33万円に拡大
・特例の適用対象を、「売主のみ」→「売主・買主の双方」に拡大
という3つの合わせ技です。
<「低廉な空家等の媒介の特例」による仲介手数料の上限額>
【出典】国土交通省ホームページ
『(令和6年6月21日)不動産業による空き家対策推進プログラム(本体)』より抜粋
たとえば、100万円の空き家売買を仲介しても、実質的に800万円の案件を媒介したのと同じ金額の仲介手数料をもらえるため、さすがに空き家対策として一定の効果は期待できそうで、国土交通省の不動産業者に地方の空き家等の取引を活性化してもらいたいという思いが強く表れているかと思います。
なお、特例を活用した仲介手数料をもらうためには、事前に依頼者に説明し、合意する必要があり、全ての案件で自動的に仲介手数料の上限が引き上げとなるわけではありません。
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ここまでのご説明で、国土交通省が今回の仲介手数料引き上げを行った主旨は、ご理解いただけたのではないかと思います。
ところで、一部の不動産業者のホームページ等を見ると、早速「800万円以下の売買案件の仲介手数料を一律33万円に引き上げます」といった案内を見かけます。
たとえば、都心部ですぐに売れそうな、入居者のいる(=空き家でない)区分ワンルームなどでも800万円以下の案件は多く存在しますが、法改正の主旨から、こうした案件は特例の対象外とならないのでしょうか?
この点について、国土交通省は「価格800万円以下の宅地・建物について、使用の状態は不問」と明言しています。(著者が国土交通省に尋ねたところ、「将来の空き家対策も兼ねている」「対象を細かく分けるのは事業者の負担となる」などの理由によるものと教えてくれました)
非常に違和感は覚えますが、空き家等以外も今回追加された特例の対象となる制度設計となっていることは間違いないようです。
もっとも、経緯はともかく、全ての800万円以下の不動産売買に今回の特例を適用することに関しては、著者個人は妥当と捉えています。
空き家等であろうと・なかろうと、従来の特例によるインセンティブでは、不動産業者の利益が殆ど出ないだろうことは容易に想像できるところで、巡り巡っては販売活動の質の低下に繋がってくるはずです。
その意味で、空き家対策の“どさくさ”であっても、適正な金額の仲介手数料を支払うことで、真っ当な仲介業務をしてくれるなら、必要コストとして許容すべき範囲ではないかと考える次第です。
今回の法改正によって、空き家等に限らず、低額な不動産取引全体が活性化することを期待しましょう。
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