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停電で困るのは水より先に「レジ」だった 家計のための防災、現金・書類・制度の順に点検する

停電で困るのは水より先に「レジ」だった 家計のための防災、現金・書類・制度の順に点検する

停電で困るのは水より先に「レジ」だった 家計のための防災、現金・書類・制度の順に点検する

2018年9月6日の未明、北海道で地震が起き、道内のほぼ全域が停電しました。日本で初めての、いわゆるブラックアウトです。このとき札幌の市街地で何が起きたかというと、棚に商品はあるのにレジが動かず、電子マネーもクレジットカードも読み取れない店が続出しました。懐中電灯で手元を照らしながら手計算で会計をした店もあったと伝えられています。買えたのは、財布に紙幣と小銭を入れていた人でした。

防災リュックの水や食料は毎年入れ替えているという方でも、「停電の間、何で払うか」まで決めている家庭は多くありません。普段スマホ一つで支払いが済んでいるほど、この穴は見えにくくなります。

今年の防災の日(9月1日)はもう過ぎました。ただ、お金まわりの備えに季節はありません。この記事では、手元の現金、失っても取り戻せる情報、被災後に使える制度の3段に分けて、家計の側から災害への備えを整理します。読み終わったら、年に一度の点検日をご自身で決めてみてください。

止まるのは電子マネーだけではない

停電と通信障害が同時に起きると、店の決済端末、スマホ決済、ATMが一度に使えなくなります。電気が来なければ端末は動かず、通信が切れていれば残高の照会も承認もできないからです。店が営業していても「現金のみ」の貼り紙になるのは、店側が意地悪をしているのではなく、それしか手段が残っていないためです。

ATMについても同じです。銀行の建物が無事でも、停電中は機械が動きません。復旧後も、引き出しに来る人が集中して長い列になります。「必要な額を、必要なときに、すぐ手にできない」状態は、発災から数日間は続くものと考えておいたほうが現実的です。

国や決済事業者の側でも、停電時にカード番号を店側で控えて後日処理する方法などの検討や実証が進められています。ただ、それがどの店でも当たり前に使える状態になっているとは言えません。現時点では、キャッシュレスは平時の主役、現金は停電時の控えと割り切って、両方を持っておくのが堅実です。

手元に置く現金は「枚数」まで決める

では、いくら置いておけばよいのか。実は、国が示している「防災用の現金はいくら」という公式の基準はありません。食料や水については、内閣府などが「最低3日分、できれば1週間分」という目安を出していますので、現金もこれに合わせて考えるのが分かりやすいでしょう。

一例として、3人家族で、1人あたり1日2,000円を停電中の食料や日用品の購入に充てると仮定します。

3日分なら、2,000円 × 3人 × 3日 = 18,000円。
1週間分なら、2,000円 × 3人 × 7日 = 42,000円。

この1人1日2,000円という数字は仮の置き方で、お住まいの地域や家族構成で変わります。ただ、「下限18,000円、できれば42,000円」のように幅で決めておくと、年に一度の点検で増減の判断がしやすくなります。

1万円札は、災害時にはほぼ使えないと考える

金額より大事なのが内訳です。停電中の店は釣り銭の用意が乏しく、1万円札を出すと断られることがあります。18,000円を用意するなら、たとえば次のような組み合わせにしておきます。

千円札15枚 = 15,000円
500円玉4枚 = 2,000円
100円玉10枚 = 1,000円
合計 = 18,000円

100円玉と10円玉を入れておくのには、もう一つ理由があります。公衆電話です。公衆電話は電話回線から電力を受けているため停電中も通話できますが、停電中はテレホンカードが使えず、硬貨だけが使えます(NTT東日本の案内による)。大規模な災害でNTTが無料化を判断した場合でも、アナログ式の機種では一度硬貨を入れてからかける仕様で、通話後に硬貨は戻ってきます。いずれにしても、硬貨がなければ最初の一歩が踏み出せません。

置き場所は分ける、年に一度は開ける

現金は一か所にまとめず、非常持ち出し袋、自宅の別の場所、職場の机や車の中といった具合に分けて置きます。家が崩れて持ち出し袋に手が届かない、逆に外出先で被災して家に戻れない、という状況のどちらにも対応するためです。

そして、しまい込んだ現金は使われて減っていることがあります。家族が立て替えに使い、戻し忘れる。これは珍しくありません。点検日を決めて、残高と枚数を数え直す。これだけで「いざ開けたら空だった」は防げます。

通帳がなくても、預金は下ろせる

「通帳も印鑑も流されたら、お金は引き出せないのでは」と心配される方が多いのですが、これは誤解です。大規模災害が起きると、財務局と日本銀行が金融機関に対して、預金証書や通帳をなくした人への払い出し、届出印がない場合は拇印で応じることなどを求める要請を出します。

直近の例が2024年1月の能登半島地震です。地震の翌日である1月2日に金融機関への要請が出され、各行は1月4日から、営業できる店舗で運転免許証などの本人確認書類をもとに預金の払い出しに応じました。2011年の東日本大震災のときも、金融庁は「通帳や印鑑を紛失しても、本人確認できる書類の提示で払戻しに応じている」と案内し、本人確認書類まで失った場合には住所・氏名などを聞き取って登録内容と照合する柔軟な対応をとるよう求めています。

ここから導ける備えは二つです。一つは、運転免許証やマイナンバーカードなど本人確認になるものを、通帳よりも優先して持ち出すこと。もう一つは、「どの銀行に口座があるか」を本人以外の家族も知っておくことです。払い戻しは本人確認ができて初めて動きますが、口座のある銀行が分からなければ、そもそも窓口に行けません。

書類の原本より、たどり着ける「手がかり」を残す

保険証券、通帳、年金関係の書類。これらは原本が失われても再発行や請求ができます。必要なのは原本ではなく、どこと契約しているか、番号は何かという手がかりです。

保険は「会社名だけ」でも調べられる

生命保険については、生命保険協会が災害救助法の適用地域の契約者向けに特別な取り扱いを設けています。申し出により保険料の払い込み猶予を最長6か月延長する、必要書類を一部省いて保険金・給付金を簡易迅速に支払う、といった内容です。さらに、家屋の流失や焼失で契約の手がかり自体を失った場合には、家族からの照会に応じて契約の有無を調べる「災害地域生保契約照会制度」があります。

損害保険についても、日本損害保険協会が2014年から「自然災害等損保契約照会制度」を設けています。災害救助法の適用地域で契約の手がかりを失った場合、協会内の照会センターに連絡すると全会員会社に照会がかかり、契約があればその保険会社から連絡が来ます。回答まで2週間程度かかるとされていますので、証券番号のメモがあればその分だけ早く動けます。

こうした制度があるので、保険証券の原本を持ち出す必要はありません。その代わり、保険会社名と証券番号、担当者や代理店の連絡先を1枚にまとめ、紙は持ち出し袋に、写真はクラウドに置いておく。これで十分に動けます。

年金手帳はもう発行されていない

年金関係で押さえておきたいのは、年金手帳が2022年4月で新規発行を終えている点です。それ以降に加入した方には「基礎年金番号通知書」が送られています。お手元の年金手帳は引き続き有効ですが、災害で失った場合に再交付されるのは通知書のほうです。いずれにしても大切なのは手帳そのものではなく基礎年金番号で、これもメモに含めておけば足ります。

ログイン情報は「共有」ではなく「たどれる状態」に

銀行や証券のアプリのパスワードを家族に教えておく、という助言をよく見かけますが、パスワードそのものを紙に書いて渡すのは別のリスクを生みます。おすすめしたいのは、「どの金融機関に口座があるか」「本人が動けないとき、どこを見れば情報にたどり着けるか」を共有しておく形です。パスワード管理アプリの緊急アクセス機能を使う、封をした封筒を決まった場所に置くなど、方法は家庭ごとに選べます。本人しか分からない状態をなくすことが目的で、全員が全部を知っている状態にすることが目的ではありません。

住まいが壊れたとき、国からいくら受け取れるか

最後に、被災した後に使える公的な制度です。住まいが大きな被害を受けた場合の代表的な制度が、被災者生活再建支援法に基づく「被災者生活再建支援金」です。全壊10世帯以上の被害が出た市町村など、一定の規模以上の災害が対象になります。

金額は、被害の程度に応じた「基礎支援金」と、住まいをどう再建するかに応じた「加算支援金」の合計です。複数人の世帯で、代表的な組み合わせを挙げます。

全壊で、住宅を建設または購入する場合:基礎100万円 + 加算200万円 = 300万円
大規模半壊で、補修する場合:基礎50万円 + 加算100万円 = 150万円
中規模半壊で、賃貸住宅を借りる場合:基礎なし + 加算25万円 = 25万円

単身世帯の場合は、いずれも記載額の4分の3になります。たとえば単身で全壊・建設購入なら、300万円 × 3/4 = 225万円です。

申請には市区町村が交付する「罹災(りさい)証明書」が要ります。災害対策基本法の第90条の2で、市町村長は被災者から申請があれば遅滞なく被害を調査して証明書を交付しなければならない、と定められています。大きな災害の後に「まず罹災証明の申請から」と言われるのはこのためで、支援金だけでなく各種の減免や貸付の入口にもなります。

申請期限にも注意が必要です。基礎支援金は災害発生日から13か月以内、加算支援金は37か月以内が原則です。避難生活の中で期限を見失うことがありますので、「制度があること」と「期限があること」の2点だけは頭に置いておいてください。

点検日を決めて、3つだけ数える

災害の備えで難しいのは、始めることより続けることです。年に一度、決まった日に次の3つを確認する、と決めておくのが現実的です。

一つ目、防災用の現金の残高と枚数。千円札と硬貨が減っていないか数えます。
二つ目、口座のある金融機関と保険の契約先。会社名と番号のメモが最新か見直します。転職や契約の見直しで変わりやすい項目です。
三つ目、本人確認書類の置き場所。家族全員が、誰のものがどこにあるかを言えるか確かめます。

点検日は、防災の日にこだわる必要はありません。11月5日は津波対策の推進に関する法律で定められた「津波防災の日」ですし、年末の大掃除に組み込むのも一案です。離れて暮らす家族がいる場合は、この日に電話やメッセージで「もしものときの連絡手段」と「お金まわりの情報の在りか」を確認し合う習慣にすると、備えが家族全体に広がります。

最後に

モノの備えは、買えば終わります。お金の備えは、金額を決め、情報を残し、制度を知るという3段で初めて形になります。どれも大がかりな作業ではありませんが、「本人しか分からない」状態を一つ減らすだけで、いざというときに家族が動ける範囲は大きく変わります。

家計の全体像を整理しておくことは、災害への備えであると同時に、普段の資産形成の土台づくりでもあります。ご自身の口座や保険を一度棚卸ししてみたい、どこから手をつければよいか分からない、という方は、お気軽にご相談ください。

まずは30秒、ご自身のタイプを知ることから

口座や保険を棚卸しする前に、いまの自分がお金とどう向き合うタイプなのかを知っておくと、整理の順番が決めやすくなります。いくつかの質問に答えるだけの簡単な診断です。

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