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この春、JR東日本が1987年の民営化以降、初の本格的な運賃値上げを行いました。JR東日本の公表資料によれば、普通運賃だけでなく定期運賃も改定対象となっており、区間によっては負担増がかなり目立つケースもあります。今回の改定によって、JRを通勤・通学、営業や通院などで使う人には、少なからぬ影響が出ることになります。
もっとも、SNSでは「会社が通勤定期を支給しているからノーダメだった」「自分には通勤定期があるから、値上げで他社路線に人が流れるならむしろ歓迎」といった声も見られます。
ただ、こうした見方には少し注意が必要です。形式的に定期代を会社が負担していても、企業のコスト増や社会保険料の仕組みを通じて、結局は家計や手取りに跳ね返ってくる可能性があるからです。
本稿では、JR東日本の値上げが実際にどこへ効いてくるのかを整理したうえで、なぜ「通勤定期があるから大丈夫」とはいえないのかを考えてみます。
今回2026年3月14日の改定では、一部区間・一部運賃といった限定的な値上げではなく、JR東日本が管轄する全路線を対象として、普通運賃・定期運賃のほぼ全てに大幅な値上げが行われました。
同社資料によれば、全体の改定率は7.1%。とくに首都圏では運賃区分の見直しも重なったことで、たとえば山手線内の普通運賃は16.4%の大幅な値上げとなりました。都心部では日常的に電車移動をする方が多いため、月単位・年単位で見ればかなりの値上げ実感を伴うケースもあることでしょう。
そして、さらに大きな値上げとなったのは定期運賃です。たとえば、前述した山手線内の改定率は通勤定期運賃で22.9%、通学定期運賃で16.8%と、いずれも普通運賃以上の大きな値上げとなっています。(通学定期に限り、幹線・地方交通線を運賃据え置きとするなど、一定の配慮は見られます)
全体の改定率7.1%だけを見れば、それほど大きな値上げには感じにくいものの、都心部のJRを定期券利用する会社員・学生らにとっては2割前後の値上げ幅ですから、かなりの衝撃を持って受け止められたといえるでしょう。
この点に関連して、SNSでは「会社が通勤定期を支給しているからノーダメだった」という意見、さらには「自分には通勤定期があるから、値上げで他社路線に人が流れるならむしろ歓迎」といった声まで散見されました。
しかし、こうした見方には少し注意が必要です。
1つ目の理由は「企業側の負担増」です。
たしかに多くの企業では通勤定期代相当額を「通勤手当」として支給しています。通勤手当は一定範囲内で非課税ということもあり、実質的に勤務先が無償で通勤定期券を支給してくれている、と感じるのも無理はありません。
しかし、通勤手当は企業にとっては販管費(人件費)の一部であり、自社の営業利益・経常利益を削って支出しているものです。「通勤定期運賃の値上げ=通勤手当の増加=販管費の増加」ですから、従業員の多い企業ほど継続的に自社の利益を圧迫する要因となります。
もちろん、今回の運賃改定だけで賃上げが止まったり、賞与が減ったりするケースは多くないでしょうが、「企業負担だからノーダメ」という感覚もまた、実態とは少し異なることは理解しておくべきでしょう。
もう1つの理由、より直接的に影響しやすい理由が「社会保険料の負担増」です。
原則として、会社員の方は勤務先を通じて毎月厚生年金・健康保険などの社会保険料を支払っているのですが、その保険料算定の根拠にはこの「通勤手当」も含まれています。
つまり、通勤定期運賃の値上げ分が通勤手当の増額として支給されたとしても、社会保険料の負担増分だけ、会社員の方の手取りは減ってしまう可能性があるのです。(厳密にいえば、社会保険料は標準報酬月額による“等級”で金額が決まるため、通勤手当の増額分がそのまま社会保険料の増額に反映されるわけではありません)
もう1点、今回のJR東日本の値上げで気になるのは、周辺私鉄各社への運賃値上げの波及です。本稿執筆時点では私鉄各社に値上げ追従の動きは見られませんが、地域最大手のJR東日本が本格改定に踏み切ったインパクトは小さくないはずです。
首都圏ではJRと私鉄を乗り継いで通勤・通学する人も多く、仮に私鉄側でも値上げが広がれば、交通費全体の負担はさらに重くなります。
また、企業によっては、こうした通勤コストの上昇を受けて、通勤ルートの見直しを求める場面も出てくるでしょう。
従業員から見れば「そこまで細かく言うのか!」と感じるかもしれませんが、これは単なるコストカットの話だけではありません。通勤手当には、税務上も「最も経済的かつ合理的な経路および方法」という考え方があるため、企業としても、どのルートを支給対象とするかを一定程度意識せざるを得ないのです。
いかがでしょうか。
今回のJR東日本の運賃改定は、「JRが少し値上げした」というだけの話ではありません。
通勤定期が会社負担であっても、企業コストや社会保険料の仕組みを通じて、回り回って家計や手取りに影響する可能性があります。
今後は私鉄各社への波及や、企業による通勤ルート見直しの動きまで含めて、通勤・通学コスト全体が見直されていく局面に入っていくのかもしれません。
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