資産運用
3月も折り返しとなり、まさに賃貸募集の繁忙期は佳境を迎えていますが、今年は例年とはやや異なる様相を呈しています。ネットニュースやSNSに、「どこも家賃が高すぎる」「もう部屋が選べない」といった悲鳴の声が目立つのです。
実際、東京都心部など一部地域では、家賃の上昇がはっきり見える局面に入っています。特に山手線沿線や人気路線の駅近物件では、長年不動産賃貸に携わる著者も驚くような家賃で、どんどん募集が埋まっている状況です。
しかし、この一面だけを見て、「大家は儲け過ぎだ」「今こそ不動産投資を始めるべきだ」と考えるのは早計でしょう。家賃上昇の裏には運営経費の高騰があること、そして利回りから逆算した“期待売却益”をどう織り込むかによって、この現象の捉え方、ひいては今後の投資戦略が大きく変わり得るからです。
本稿では、家賃上昇を「毎月の手残り(インカム)」と「売却・評価(キャピタル)」の両面から整理したうえで、最終的に投資家が何を工夫すれば“追い風”を成果につなげやすいのかを、実務目線で考えていきます。
少し前まで、不動産投資では「築年が進めば(建物が古くなれば)、家賃も下がる」というのが半ば常識でした。
ところが、冒頭にご紹介した声のように、近年では経年によりむしろ家賃が上がるケースが目立っています。広義の家賃上昇、つまり経年によっても家賃が下がらないケースまで含めれば、東京都心部以外でも、この傾向を実感している投資家・大家さんは少なくないことでしょう。
ただし、ここで冷静に見ておきたいのは、「家賃が上がった=利益も増える」とは限らない点です。むしろ多くの場合、「毎月の利益(家賃から運営経費を引いた手残り)」は思ったほど増えていない。家賃は上がったのに、利益は下がったというケースさえ、珍しくないはずです。
理由は明確で、家賃と同じかそれ以上のペースで運営経費も上昇しているからです。
不動産投資(不動産賃貸業)では、資金調達から日常の物件管理に至るまで、さまざまな運営経費が発生します。
たとえば「金利」です。収益物件の融資では、住宅ローンのフラット35のような固定金利による借入は一般的ではありません。変動金利で借りている場合、数年前よりも金利が既に1%前後上昇しているケースも多いはずで、その影響は小さくはないでしょう。
また、「修繕費」「設備更新費」「火災保険料」「地震保険料」「固定資産税」といった、収益物件の維持管理に必須となる各種経費も、その大半が上昇・高騰しています。
結果として、家賃が上がっても「利益も増える」までには至らず、「減益幅の一部を減らせた」という“防衛”に近い意味合いに留まることが多い、というわけです。
ここまでのとおり、昨今の環境では家賃が上がっても“防衛”的な意味合いに留まるケースが多いといえます。
しかし投資家目線で見ると、家賃上昇の効果が大きく表れやすいのは、売却や時価評価といった“資産価値”の領域です。
ご承知のとおり、不動産の価値算定にはさまざまな尺度があります。「一物四価」という表現を聞いたことのある方も多いでしょう。ただ、収益物件に限っていえば、期待利回りから逆算して価値を捉える発想、すなわち「その物件が将来どれだけ家賃を生むか」が評価の軸になりやすい傾向があります。
特に区分投資や戸建て投資のように、1戸あたりの家賃が利回りに直結しやすい投資では、家賃の数千円~数万円の違いが、売却査定で目に見えて差になることも珍しくありません。
つまり投資家にとって、家賃上昇による「毎月の利益」が運営経費の上昇で相殺されがちだったとしても、家賃上昇により“期待売却益”の見込みが変わる余地がある。インカムとキャピタルをセットで見るなら、家賃の上昇は投資効率に効いてくる可能性があるわけです。
もちろん、これは闇雲に家賃を上げることが最適解という話ではありません。周辺相場や借り手の支払い能力を超えれば、退去や空室、最悪は滞納という形で跳ね返り、広告費や原状回復費、募集期間の機会損失、あるいは督促対応など、新たな運営負担が増加して本末転倒になり得ます。家賃上昇は、あくまで“維持できる水準”として設計する必要があります。
では、運営経費の増加を避けつつ、家賃上昇の効果を最大化するにはどうすればよいのでしょうか。正解のない難しいテーマではありますが、重要な観点の一例として「付加価値」と「運用体力」を挙げることができます。
まず「付加価値」について。適正家賃とは必ずしも周辺相場だけで決まるわけではありません。
たとえば、ペット飼育可である、内装や水回りが“今っぽい”状態に整っている、通信環境が強い、共用部の使い勝手がよい――こうした差別化がうまく刺されば、家賃が周囲の競合物件より高めでも、安定した入居が期待できることがあります。重要なのは「何となく綺麗にする」ではなく、「そのエリアで刺さる価値」を意識して投資することです。リノベーションは目立つ施策ですが、必ずしも大掛かりである必要はなく、費用対効果の高い改善を積み重ねるだけでも結果が変わることはあります。
もう一つは「運用体力」です。内装や設備で差別化するには、先行投資する資金力が必要です。また、仲介会社に支払うAD(広告料)を出す、必ずしも入居付けを急がず、付加価値と相性の良い入居者が現れるまで待つ――こうした運用にも体力が求められます。
家賃を上げれば、成約までの時間が伸びるリスクも増します。空室期間をどの程度許容できるのか、募集条件をどう設計し、どのタイミングで手当て(家賃調整やAD等)を打てるのか。付加価値と体力はセットで、ここが弱いと「上げたいのに上げ切れない」という状態になりやすいのです。
ひょっとしたら今後の賃貸市場は、こうした取り組みのされた高付加価値な物件と、従来の延長線上の物件への二極化が、より鮮明になっていくのかもしれません。
いかがでしょうか。
家賃上昇は、投資家にとって一見すると追い風に見えます。しかし実務では、運営経費の上昇に吸収されやすく、手残りがそのまま増えるとは限りません。一方で、家賃が売却や評価に与える影響まで含めれば、投資成績に効いてくる余地も確かにあります。
金利上昇と物価高騰の中で、不動産投資は新しいフェーズに移行しつつあります。相場に“合わせる”だけでなく、付加価値と運用体力で“上げられる状態”を作り、インカムとキャピタルをセットで設計する。そうした地味な経営が、これまで以上に重要になっていくのではないでしょうか。
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