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労働者にメリットなし!?デジタル給与払いで得をするのは誰!?

労働者にメリットなし!?デジタル給与払いで得をするのは誰!?

労働者にメリットなし!?デジタル給与払いで得をするのは誰!?

先日、厚生労働省が給与支払いに関する見直しを表明し、給与をキャッシュレス決済の口座に振り込む「デジタル給与払い」が解禁される見通しとなったことが報道されました。

現時点で判明している制度内容は以下のとおりです。

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<デジタル給与払い制度の概要>

●デジタル給与払いを行う使用者(企業など)は、対象となる労働者の範囲や利用する資金移動業者などについて、労働組合などと協定を結ぶ必要がある

●そのうえで、労働者が望むか同意した場合に、給与の全額か一部をデジタル口座に振り込むことができる(デジタル口座支払いの上限は100万円)

●対象となるのは「PayPay」「d払い」「楽天ペイ」といったキャッシュレス口座(全国の財務局に登録のある「資金移動業者」のうち、一定の条件を満たして厚労相の指定を受けた業者に限定)

●労働者の意に反してデジタル給与払いをすることを防ぐため、労働者が同意書を提出することを条件とし、守らない場合には労働基準監督署が指導などを行う

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上記のとおり、使用者がデジタル給与払いを行うにあたっては、労働者本人やその代表団体である労働組合と事前に同意が必要で、一見すると、労働者にとっては給与受け取りの選択肢が増えるだけのように思えます。

しかし、早くもSNSなどでは、「労働者にはデメリットしかない」「労働者の権利侵害を助長する」などといった制度導入を懸念する声も少なからず挙がっており、事はそうシンプルではなさそうです。

本稿では、デジタル給与払い制度の導入に関して、現時点で判明している情報を元に、労働者目線でのメリット・デメリットを見ていきたいと思います。

■給与払いの権利を守る「賃金支払いの5原則」!

まずは、現行の給与支払いに関する法規制からおさらいしておきましょう。

本来、使用者(企業など)と労働者は対等の関係にあるべきで、これを「労使対等の原則」と呼びます。

しかし、現実には優越的な立場にある使用者が一方的に強く、皆さんもご承知のように、多くの労働現場では「労使対等の原則」は遵守されていません。

使用者による労働者の権利侵害に対しては、労働三法(「労働基準法」「労働組合法」「労働関係調整法」)を始めとする様々な法規制が設けられていますが、本稿のテーマである給与支払いについては、労働基準法第24条に規定する「賃金支払いの5原則」がその抑止力となっています。

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<賃金支払いの5原則>

(1)通貨支払いの原則

(2)直接払いの原則

(3)全額払いの原則

(4)毎月1回以上の原則

(5)一定期日払いの原則

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「賃金支払いの5原則」では、現金以外で賃金を支給すること、労働者の代理人(上司など)に賃金を支払うこと、所定合意以外の控除を行うこと、月1回以上のサイクルや不定期での支払いなどを禁止しています。

このうち、デジタル給与払いに直接関係するのは、「(1)通貨支払いの原則」です。

現在のルールでは、給与支払いは「日本通貨(円)」に限定されており、商品券や小切手、貴金属等による支払いは禁止されており、唯一の例外が、労働者の同意を前提にした「口座振り込み」です。

デジタル給与払い導入により、「PayPay」「d払い」「楽天ペイ」などのデジタル口座への振り込みが認められるのであれば、銀行等の口座振り込みと同等の労働者保護あるいは労働者の利便性向上があるのか、といった点が関心事となりそうです。

■デジタル給与払いは、労働者にメリットがない!?

では、デジタル給与支払いによって、労働者にどのようなメリットがあるのでしょうか。

著者が確認した範囲では、「銀行口座から引き出す手間が省ける」「PayPayなどにチャージする手間が省ける」といった点が主なメリットとして紹介されているようです。

しかし、スマホ決済アプリなどのデジタル口座からの現金出金は、むしろ銀行口座からの引き出しよりも面倒かもしれません。

たとえば、「PayPay」でいえば、事前に所定の本人認証・引き出し口座の登録が必要なうえ、出金指示から引き出しできるまでにタイムラグがあります。さらに、同じグループのPayPay銀行以外を出金先口座に指定した場合、100円の手数料がかかってしまいます。(いずれも2022年9月現在の情報です)
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<参考>PayPay残高を銀行口座に出金(払い出し)したい
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また、スマホ決済アプリへのチャージについても、クレジットカード等からのチャージであれば必要な金額を必要なタイミングでチャージできますし、条件が揃えばポイントの二重獲得ができることもあります。

デジタル給与払いの導入をきっかけに、今後はスマホ決済事業者らがサービス改善を図ることも考えられますが、少なくとも現時点の情報からは、多くの労働者側にとって特筆すべきメリットはなさそうです。

■デジタル給与払いで、得をするのは誰!?

デジタル給与払いは、多くの労働者にメリットがない一方、デメリットやリスクは少なからず存在するように思えます。
まずは、スマホ決済アプリ自体の利便性です。

ここ数年で爆発的に利便性が向上したとはいえ、まだまだ現金同等の利便性があるとは言えません。

民間のお店やサービスはもちろん、公共料金や税金等の支払いでさえ現金以外は非対応のケースは多くありますので、「デジタル口座にお金があるが、目先の支払い用のお金が足りない」といったシーンは増えてしまうかもしれません。

また、「スマホの紛失・盗難・故障」「デジタル口座事業者の破綻やサービス撤退・縮小」「通信障害」といったかねてからの問題点についても、有事の影響がより大きくなることは間違いないでしょう。

こうした状況下、デジタル給与払いの導入で得をするのは誰なのでしょうか?

一つ考えられるのは、「国内に銀行口座を持たない労働者」「日払い・週払い契約の労働者」を多く雇用する使用者(企業)です。

これらの使用者にとっては、銀行などへの口座振り込みは手数料が高く、現金支払いは現金の管理が煩雑といった課題の軽減に繋がる可能性があるためです。

但し、その相対で「労働者の意に反してデジタル給与払いを強要されること」への懸念は残ります。

これまで「国内の銀行口座を持たずに現金で給与を受け取っていた労働者」「銀行口座で週払いの給与を受け取っていた労働者」などに対して、使用者の都合によってデジタル給与払いを実質的に強要されることがないよう、くれぐれも入念な制度設計が必要だと思います。(現状でも実効性の足りない「労働基準監督署による監督」だけでは大いに不安が残ります)

これから検討されるであろう具体的な運用・制度の設計を経て、デジタル口座事業者や一部の使用者だけでなく、労働者にとってもメリットのある形となることを期待したいところですね。

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