ライフ

ライフ

年110万円までなら安心、が裏目に出るとき。生前贈与でつまずく人の共通点

年110万円までなら安心、が裏目に出るとき。生前贈与でつまずく人の共通点

年110万円までなら安心、が裏目に出るとき。生前贈与でつまずく人の共通点

年110万円までなら税金はかからない。この一行だけを頼りに贈与を続けている家庭は多いのですが、渡し方を間違えると、せっかく動かしたお金がそのまま相続財産に戻ってきます。しかも本人が亡くなったあとに発覚するので、直す機会はもうありません。ただ、その前に確かめておきたいことがあります。110万円という数字の数え方から、すでに誤解がある場合です。

110万円は「渡す人」ではなく「もらう人」で数える

暦年課税の基礎控除は年110万円です。ここで取り違えが起きやすいのが、この110万円が誰を単位にしているかという点です。答えは、もらう側です。

たとえば父から110万円、母から110万円を同じ年に受け取ると、子から見た受贈額は合計220万円になります。基礎控除を差し引いた110万円が課税対象で、贈与税の申告義務も生じます。渡した側はそれぞれ110万円ずつのつもりでも、税の計算はもらった人のところで合算されます。

逆に、親が子3人にそれぞれ110万円ずつ渡す場合は、受け取る人ごとに110万円の枠があるので、合計330万円でも贈与税はかかりません。親の側に上限があるわけではないのです。

110万円を超えた部分の税率は10%から55%までの累進で、直系尊属から18歳以上の子や孫への贈与には低いほうの税率表が使われます。それ以外の贈与とは税額が変わりますので、兄弟間や親族間で渡す場合は同じ金額でも負担が違います。

持ち戻しが7年になるのは2031年から。2026年内の相続はまだ3年

2024年の改正で、亡くなる前の贈与を相続財産に足し戻す期間が3年から7年へ延びました。制度の名前は生前贈与加算、通称は持ち戻しです。ここで多くの解説が「もう7年になった」と書いていますが、正確には段階的な移行の途中です。

相続が2026年12月31日までに起きた場合、足し戻される期間は今も亡くなる前3年以内です。2027年1月1日から2030年12月31日までに起きた相続では、2024年1月1日から亡くなった日までが対象になります。起点が2024年1月1日で固定されているので、年が進むほど期間が伸びていく形です。そして2031年1月1日以後の相続で、ようやく7年以内という姿になります。

延長された部分には緩和措置があります。亡くなる前3年以内の贈与は全額が足し戻されますが、それより前の期間の贈与については、合計から100万円を差し引けます。この100万円は1年あたりではなく、その期間の総額に対して一度だけです。

毎年110万円を10年間渡し続けた場合で考えてみます。2031年以後に相続が起きたとすると、直近7年分の770万円が対象になり、うち3年分の330万円は全額、残り4年分の440万円からは100万円を引いた340万円が加算されます。合わせて670万円。8年以上前に渡した330万円は戻りません。

足し戻された分について贈与税を納めていれば、その税額は相続税から差し引かれます。二重に取られるわけではありません。ただし、差し引ききれなかった贈与税は戻ってきません。相続税がかからない家庭で、贈与税だけを何年も納めていたという場合、その分は取り返せない計算になります。

なお、期間の制限がかかるのは暦年課税の話です。相続時精算課税を選んだ場合、渡した財産は年110万円の基礎控除を引いた残りが、何年前のものであっても全額、相続財産に加算されます。7年を避けるために精算課税へ、という発想は成り立ちません。

孫に渡した分は原則戻らない。ただし例外が3つある

意外に知られていないのが、この持ち戻しには対象になる人とならない人がいることです。足し戻しの対象は、相続や遺贈によって財産を取得した人です。

つまり、相続人ではない孫や子の配偶者へ渡した分は、原則として足し戻されません。子を飛ばして孫へ渡していく方法が有効だと言われるのは、この仕組みが理由です。

ただし例外があります。子が先に亡くなっていて孫が代襲相続人になっている場合、遺言で孫に財産を残した場合、そして孫を生命保険金の受取人にしていた場合。いずれも財産を取得した人にあたるため、過去の贈与が足し戻されます。孫なら大丈夫という理解のまま生命保険の受取人を孫にしていると、想定と違う結果になります。孫がその贈与者から相続時精算課税を選んでいる場合も、相続で財産を取得した人として扱われるため、暦年課税で受け取っていた分まで加算の対象に入ります。

もうひとつ、孫が財産を受け取ると相続税額そのものが2割増しになります。配偶者と一親等の血族以外が取得した場合の加算で、代襲相続人になっている孫は対象外ですが、遺言で受け取った孫や保険金を受け取った孫にはこれがかかります。持ち戻しを避けたつもりが、税額では増えていたということが起こり得ます。

逆に、期間内であっても足し戻されないものがあります。贈与税の配偶者控除を使った部分、住宅取得等資金の非課税を受けた部分、教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与の非課税分です。これらは制度そのものが相続と切り離されています。なお期間内であれば、基礎控除以下の贈与も、亡くなった年に渡した分も、すべて足し戻しの対象です。金額が小さいから関係ないとは言えません。

「あげたつもり」では、贈与は成立していない

もっと根の深い問題があります。そもそも贈与が成立していないケースです。

贈与は、渡す側の「あげます」と受け取る側の「受け取ります」がそろって初めて成立する契約です。口約束でも構いませんが、片方の意思だけでは成立しません。子ども名義の口座を親が作り、親が通帳と印鑑を持ったまま毎年入金していた。子どもはその口座の存在を知らない。この形は贈与ではなく、単なる資金の移動として扱われます。

こうした口座は名義預金と呼ばれ、名義が誰であっても実質的な持ち主である親の財産として相続税がかかります。10年、20年と積み上げたお金が、まとめて相続財産に戻ってくることになります。

名義預金かどうかの判断では、次の5点が手がかりになります。

1. 贈与契約書があるか
2. 受け渡しは口座間の振込で行われているか
3. 通帳・印鑑・キャッシュカードを受け取った本人が管理しているか
4. もらったお金を本人の判断で自由に使っているか
5. 年110万円を超える贈与について申告しているか

実務では後ろの3つが欠かせず、契約書と口座振込はあればより安全になる、と整理されることが多いようです。法令に優先順位が定められているわけではないので、5つとも整えておくに越したことはありません。

贈与税に時効がある、と考えるのも危険です。たしかに贈与税には申告期限から6年(不正があった場合は7年)という期間の制限があります。しかし名義預金はそもそも贈与が成立していないので、この制限が働く余地がありません。何年前の入金であっても相続財産として扱われます。

実地調査9,512件のうち、82.3%で申告漏れが見つかっている

国税庁が2025年12月に公表した令和6事務年度の状況を見ると、相続税の実地調査は9,512件でした。そのうち申告漏れなどの誤りが見つかったのは7,826件で、割合にして82.3%です。1件あたりの申告漏れは3,093万円でした。文書や電話による簡易な接触も21,969件行われています。

見つかった財産の中身も公表されています。申告漏れとされた相続財産は2,879億円。区分の分かる財産では現金・預貯金等が837億円で最も多く、土地の353億円を大きく上回ります。不動産は登記に残るので申告から漏れにくく、逆に口座から口座への資金移動は、動かした本人以外に事情を説明できる人がいません。

贈与税そのものの調査も行われています。同じ年度で誤りが見つかった事案のうち、83.4%は申告そのものがなかったものでした。渡した記憶はあるが申告はしていない、という状態が最も多いということです。

調査では、亡くなった方だけでなく配偶者や子、孫の口座まで含めて、過去10年分の取引が確認されます。生活の拠点と口座のある地域が離れていれば、その理由を聞かれます。子どもが東京に住んでいるのに大阪の銀行に子ども名義の口座がある。この不自然さが端緒になります。

名義預金に気づいたときの直し方と、調査通知前の自主申告

すでに何年か積み上げてしまった場合でも、打つ手はあります。

まず、通帳・印鑑・キャッシュカードを本人に渡します。以後はその人が自分の判断で使う状態にします。管理の実態を整えるだけで、指摘される可能性はかなり下がります。

次に、これまで動かした分をどう扱うかを決めます。いったん親の口座へ戻して仕切り直す方法と、あらためて贈与契約書を作り、必要なら申告して正式な贈与にし直す方法があります。どちらが適切かは、金額と経過年数、家族の構成で変わります。

申告の漏れに気づいた場合、調査の事前通知を受ける前に自分から修正申告をすれば、過少申告加算税は課されません。無申告だったものを自主的に申告した場合も、通知前であれば5%まで軽くなります。逆に、調査が始まってから仮装や隠蔽が明らかになれば、重加算税として35%、無申告なら40%が上乗せされます。気づいたときに動くかどうかで、負担の差はここで開きます。

もうひとつ、時間の問題があります。親が認知症と診断されると、口座は凍結され、贈与の意思も確認できなくなります。話ができるうちに整えておく、という制約が最初からかかっているということです。

制度の名前より先に、通帳が誰の手元にあるかを確かめる

生前贈与でつまずく人には共通点があります。制度の名前と金額を先に知り、自分の家の実態を確かめないまま動き始めていることです。

いま子ども名義になっている口座の通帳とカードが、誰の引き出しに入っているか。子ども本人はその口座を知っているか。過去の入金は振込か、それとも現金か。答えられるようにしておくことが、どの制度を選ぶかより先にきます。

そのうえで、そもそも相続税がかかる家かどうかを確かめてください。基礎控除は3,000万円に法定相続人1人あたり600万円を足した額です。配偶者と子2人なら4,800万円になります。国税庁の集計では、令和6年に亡くなった方のうち相続税がかかったのは10.4%でした。過去最高ではありますが、裏を返せば9割近い家庭に相続税は発生していません。この範囲に収まっているなら、税金のために贈与を急ぐ理由はありません。老後の資金を先に手放してしまうほうが、生活を圧迫します。

ご自身のケースで税額がどうなるか、どの制度が使えるかの判断は、税理士など有資格者にご確認ください。

実家の名義がどうなっているかを先に確かめたい場合は、実家の名義、正確に答えられますか 帰省の5分でできる確認手順もあわせてご覧ください。

出典:国税庁タックスアンサーNo.4161 相続開始前に贈与があった場合の相続税の課税価格、国税庁令和6事務年度における相続税の調査等の状況、国税庁令和6年分 相続税の申告事績の概要

まずは30秒、ご自身のタイプを知ることから

財産の内訳、相続人の構成、住まいが占める割合。いくつかの質問にお答えいただくと、準備をどこから始めるべきかの目安がわかります。個別の税額計算や税務のご相談については、提携する税理士がお受けします。

関連記事