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実家の名義が誰になっているか、いま即答できる方は多くありません。住んでいるのは親なのだから親の名義だろう、というあたりで感覚が止まっているのが普通です。ところが実際に調べてみると、二十年以上前に亡くなった祖父の名義のまま手つかずだった、という家庭がかなりの割合で出てきます。
名義が分からないこと自体は、今日明日の暮らしには響きません。困るのは、家を売る、貸す、建て替える、あるいは親の介護費用のために現金化する、といった判断が必要になった瞬間です。そのときになって初めて、手続きが数か月から数年単位で先に延びると分かる。しかも制度の側は、2024年から先送りを許さない方向へ舵を切っています。
とはいえ、いきなり重い相続の話を切り出す必要はありません。次に実家へ帰ったとき、5分だけ使って名義を確かめる。この記事は、そのための手順をまとめたものです。
名義が親のものだと思っている根拠を掘り下げると、多くの場合「そう聞いた気がする」「親が住んでいるから」という程度に行き着きます。登記の書類を実際に見たことがある、という方は少数派です。
やっかいなのは、名義の放置が世代をまたぐと関係者が加速度的に増えることです。祖父の名義のまま父の代で手をつけなければ、権利を持つ人は父の兄弟に広がります。その兄弟も亡くなっていれば、いとこや、面識のない配偶者まで含まれてきます。ひとつの家について、話をつけなければならない相手が十人を超えるのは、決して極端な例ではありません。
そしてこの人数は、時間が経つほど減ることはありません。今日確認するのがいちばん人数が少なく、いちばん話が通じやすい、という単純な理由で、確認は早いほうが得です。
2024年4月1日から、相続登記が義務になりました。不動産を相続したと知った日から3年以内に登記を申請しなければならず、正当な理由がないのに怠った場合は10万円以下の過料の対象になります。過料とは行政上のペナルティで、刑事罰である罰金とは別のものです。
見落とされがちなのが、この義務が過去の相続にもさかのぼって及ぶ点です。2024年4月1日より前に相続が発生していた不動産についても、施行日から3年後にあたる2027年3月31日までに登記を申請する必要があります。この記事を公開している2026年8月末の時点で、残りは7か月ほどしかありません。何十年も放置されてきた祖父母名義の家が、まさにここに当たります。
ただし、期限を過ぎた翌日にいきなり請求書が届くわけではありません。法務省が示している流れでは、登記官が申請義務違反を把握し、相当の期間を定めて申請するよう催告し、それでも正当な理由なく応じない場合に地方裁判所へ通知される、という段取りを踏みます。慌てる必要はありませんが、催告が届いてから相続人全員を探し始めるのでは、指定された期間に間に合わないおそれがあります。
ひとつ目は、市区町村から毎年春ごろに届く固定資産税の納税通知書です。実家の押し入れや、親が書類をまとめているファイルの中に、まず一通は残っています。所在地と評価額、そして誰宛てに課税されているかが一枚で分かるので、最初に手に取るものとしては最適です。
ふたつ目は、法務局で取得する登記事項証明書です。こちらが登記簿の内容そのもので、名義を確定させる資料になります。手数料は2025年4月に改定されており、窓口で請求すると1通600円、オンラインで請求して郵送で受け取ると520円、オンラインで請求して窓口で受け取ると490円です。不動産の登記事項証明書は全国どこの法務局でも取得でき、本人以外でも請求できます。実家に行かなくても手に入る、というのがこの制度の使いどころです。
ひとつ注意が要るのは、請求に必要なのが郵便の住所ではなく地番・家屋番号だという点です。住居表示と地番が一致しない地域は多く、ここでつまずく方がよくいます。納税通知書には地番が載っていますから、先に通知書を見つけておくと、証明書の請求まで一本の線でつながります。
ここが、原稿を書くうえでいちばん補っておきたかった落とし穴です。固定資産税は、その年の1月1日時点の所有者に課税されます。多くの場合、その所有者は登記名義人です。ただし、登記名義人がすでに亡くなっている場合は事情が変わります。
名義人が死亡したまま登記が動いていない不動産は、相続人全員の共有とみなされ、相続人が連帯して納税義務を負う扱いになります。実務上は市区町村が相続人代表者を定め、その方に納税通知書を送ります。つまり、届いた通知書に親の名前が印字されていても、それは「代表して払っている人」であって、登記上の名義人とは限らないのです。
納税通知書は、場所と地番を押さえるための入口として非常に優秀です。ただ、名義を確定させる書類ではありません。「通知書に親の名前があったから大丈夫」で止めず、気になる点があれば登記事項証明書まで進む。ここが5分の確認と、本当の確認の分かれ目になります。
登記事項証明書は見慣れないと圧倒されますが、家庭で確認する目的なら、見る場所は三つで足ります。
権利部の甲区に、所有者の氏名と住所、そして「相続」「売買」といった登記の原因と日付が並びます。ここに親ではなく祖父母の名前があれば、まず祖父母の相続から手をつける必要がある、という判断になります。日付が昭和のままだった、というのもよくある光景です。
名前が複数並び、それぞれに持分が記載されていれば共有です。父母で持ち合っている、兄弟で分けている、といった形です。共有そのものが悪いわけではありませんが、売却するにも、建物を取り壊すにも、原則として共有者全員の合意が必要になります。人数と持分は早めに把握しておくに越したことはありません。
乙区には、抵当権など所有権以外の権利が記載されます。住宅ローンを完済しても、抵当権の登記は自動では消えません。抹消の申請をして初めて消えるものなので、返済が終わって何十年も経った家に登記だけが残っている例は普通にあります。売却の際には必ず抹消が必要になりますから、いま気づけたなら十分に早い段階です。
期限の話をすると、「誰が継ぐか決まっていないのに、3年で登記なんてできない」という反応が返ってきます。制度の側も、そこは織り込んでいます。
2024年4月に始まった相続人申告登記は、「この不動産の名義人が亡くなり、自分はその相続人です」と法務局に申し出る手続きです。申し出をした人は、相続登記の申請義務を果たしたものとして扱われます。遺産分割がまとまっていなくても、また相続人の一人が単独で申し出ても構いません。過料を避けるという一点においては、これで足ります。
ただし、これは義務を止めるための手続きであって、名義が変わるわけではありません。持分は登記されませんし、この状態のままでは売却も担保設定もできません。遺産分割がまとまった後に、改めて相続登記が必要になります。時間を買う制度であって、解決する制度ではない、と理解しておくのがちょうどよい距離感です。
名義の放置は、感情の問題ではなく支出の問題として跳ね返ってきます。分かりやすいのは次の三つです。
ひとつ目は、売れない空き家を持ち続ける費用です。人が住んでいなくても、固定資産税、火災保険料、水道光熱の基本料金、庭木や草の手入れは発生します。加えて、2023年12月に施行された改正空家等対策特別措置法により、放置が進んで「管理不全空家等」と判断され勧告を受けた場合、敷地の課税標準を軽くする住宅用地特例から外れます。負担調整の仕組みがあるので単純に何倍と言い切ることはできませんが、土地の固定資産税が3倍から4倍程度に上がる例が実務では紹介されています。従来は「特定空家等」だけが対象だった扱いが、その一歩手前の状態にも広がった、というのが改正の要点です。
ふたつ目は、手続きそのものにかかる手間と時間です。遺産分割協議には相続人全員の合意が要り、実印と印鑑証明書を全員分そろえる必要があります。連絡先の分からない親族、海外に住む相続人、話し合いに応じない相続人が一人でもいれば、そこで止まります。空き家は止まっている間も費用を出し続けます。
三つ目は、親の判断能力が落ちた場合です。認知症などで意思確認ができなくなると、本人名義の不動産は売却も名義変更もできなくなります。成年後見制度を使う道はありますが、家庭裁判所への申立てから選任まで時間がかかり、後見人が付いた後は本人の財産を守ることが目的になるため、家族の都合で自由に売る、という発想は通りません。家族信託のように事前に備える手段も、いずれも親が元気なうちにしか組めません。「元気なうちに」という言い回しは、ここまで具体的な意味を持っています。
とはいえ、帰省の場で「相続はどうするの」と切り出すのは、やはり気が重いものです。実際、そこまで踏み込まなくても構いません。
「名義の登記が義務化されたらしいけど、うちってどうなってるんだろう」と、テレビの話題のような温度で聞いてみる。それで納税通知書のありかが分かれば、その日の目的は達成です。次に帰ったときには権利証や登記識別情報通知の保管場所を聞き、その次には火災保険の証券とローンの完済書類を確認する。一回につき一項目で十分です。
親御さんの側も、伝えておきたいと思いながら切り出せずにいる、というのはよくある話です。踏み込まれるのを待っているのに、こちらが遠慮して何年も過ぎる。それがいちばん、もったいない使い方です。
実家の名義の確認は、相続対策というより、家族の情報を家族が把握しているかどうかの問題です。納税通知書を1枚見つける、証明書を1通取り寄せる。それだけでも、いざというときの動きやすさは目に見えて変わります。特別な知識も費用もほとんど要りません。
調べた結果、名義が祖父母のままだった、共有者が多い、抵当権が残っていた、といった状況が見えてきたら、そこから先は専門家の領域です。何をどの順番で片づければよいかは、家族構成と不動産の状態によって変わります。ご自身の状況で何が優先されるのか整理したい場合は、早い段階でご相談いただくほど選べる手が多く残ります。
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